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2022/1/25

オンライントークイベント 「本にかかわる人の本にかかわるはなし」 vol.1 / 及川 卓也さん(前編)

オンライントークイベント「本にかかわる人の 本にかかわるはなし」第1回タイトル

「本、本棚、読書、図書館をめぐるはなし」

―地域図書館の役割とは。その在り方、使い方―

2021年11月11日(火)19:30-

 

 

岩手県花巻市の「新花巻図書館計画室」では、本にまつわる方々を招き、本のある空間や暮らしについて皆さんと一緒に考えていくため、全3回にわたってお送りするオンライントークイベントを開催しました。 令和3年11月11日に、株式会社マガジンハウス 広告局局長・クロスメディア事業局局長・コロカル 統括プロデューサーであり、岩手県一関市出身の及川 卓也さんをお招きし開催したイベントの様子を2回にわたって公開します。

 

 

及川卓也氏プロフィール

〈及川 卓也さんのご経歴〉

雑誌『アンアン』編集長を経て、2012年ウェブマガジン『コロカル』を立ち上げ。クリエイティブスタジオとして、地方自治体のブランドづくり、プロモーション戦略支援、オウンドメディア制作、人材育成等を行っている。新潟県首都圏向けポータルサイト「新潟のつかいかた」、AIRDO機内誌「rapora」他、自治体、企業のオウンドメディア制作運用。 書籍プロデュース「REVALUE NIPPON PROJECT 中田英寿が出会った日本工芸」、「colocal books 東北のテマヒマ」、「札幌国際芸術祭2017公式ガイドブック 札幌へアートの旅」ほか。「世界遺産平泉・一関DMO」理事。

 


高橋信一郎さん(以下、高橋):みなさんこんばんは。岩手県花巻市新花巻図書館計画室の高橋です。本日は岩手県花巻市が開催するオンライントークイベント「本にかかわる人の本にかかわるはなし」をご視聴いただきありがとうございます。今から1時間、ゲストをお招きし、本にかかわるお話を伺いたいと思います。及川卓也さん、本日はよろしくお願いします。

 

及川卓也さん(以下、及川):よろしくお願いします。楽しみにしていました。

 

新花巻図書館整備へ向けた市の取り組み

高橋:みなさん、及川さんのお話をすぐに聞きたいと思いますが、その前に少しだけ今回のイベントについてお話させてください。花巻市では新しい図書館を整備するために、昨年から市民のワークショップや意見交換会を行ってきました。平成29年にまとめた「新花巻図書館整備基本構想」をもとに新花巻図書館整備基本計画試案をまとめて、これを具体化するための会議を毎月1回開催しています。また、より多くの市民のみなさんのご意見を反映するために市内の中学校や高校、子育てサークルや障がい者関係団体と意見交換を行って、市民のみなさんと一緒に図書館を作っていこうと考えています。

 

今日から3回行うイベントのゴールは、「自分にあった本やメディアとの関わり方を見つける」ことです。

 

現代の世の中にはさまざまな電子メディアがあると思います。及川さんは書籍だけでなくウェブメディアも作っていますので、メディアとの関わり方を考えたり、本を読む場所・空間の重要性を知ったりする場にしていきたいと思っています。最後に、自分が欲しい未来の図書館をイメージしていただけたらいいなと思い、今回のイベントを開催しました。視聴していただいた皆さんの、本への関心を寄せるきっかけになればと思っています。短い時間ですが、よろしくお願いいたします。

 

このイベントを開催するにあたって真っ先に相談したのが及川さんでした。本当に気さくに相談に乗っていただきました。お忙しい中ご承諾いただきありがとうございます。

 

及川:いえいえ。

 

高橋:いろんな地域をご覧になっている及川さんなので、多分みなさんの本への興味を引き出すような内容をお話しいただけるかと思います。ハードルを上げているわけではないですが、すごく楽しみにしています。

 

及川:ははは(笑)よろしくお願いします。

 

高橋:ここからは40分ほど及川さんにお話しいただき、最後に私から質問させていただきます。ここから長丁場になりますが、よろしくお願いします。

 

 

イベントの様子(オープニング)

 

及川:はい。では改めまして、株式会社マガジンハウスの及川と申します。よろしくお願いいたします。冒頭にお伝えしておきたいのですが、私は出版社に勤めておりまして、雑誌やウェブマガジンや書籍などを作る編集者です。「図書館を作る専門家」ではないということだけ踏まえて聞いていただけたらと思います。今日は、編集者として図書館や書店、自分の書架や本とどういう風に接してきたか、そしてその中で図書館がどういう可能性を持っているかということを、「使う側」としてお話しできればと思っています。

 

改めて自己紹介をさせていただきます。私は今、株式会社マガジンハウスの広告局におります。『an・an』、『BRUTUS』、『POPEYE』、『クロワッサン』などの10の雑誌を発行している出版社です。私は岩手県一関市出身で、高校を出て東京の大学に進学した後、20代終盤くらいまでフリーランスの編集者・ライターをやっておりました。その後にマガジンハウスに入社して、若い女性向けの週刊誌『an・an』に配属されて、20年ぐらい所属しておりました。この雑誌は1970年創刊で、昨年50周年を迎えました。最後の2年半は編集長を務めておりました。その後別の部署に移りまして、2012年にウェブマガジン『コロカル』を立ち上げました。これを立ち上げてからおよそ10年経ちます。これまで東京暮らしで、岩手や一関との関わり方がそんなに深くなかったのですが、日本のさまざまな地域との関わりが生まれ、岩手で開催されたワークショップをきっかけに、地元の若手経営者の皆さんと一緒に「人口を減らさず、持続可能なまちにしていくためにどうすればいいか」を考えて活動する団体「一般社団法人世界遺産平泉・一関DMO」を作って、今も一緒に活動しています。そして2021年に福祉を訪ねるクリエイティブマガジン『こここ』を立ち上げました。

 

紙の雑誌、書籍を長く編集する中で、「読む立場」から「作る立場」に変わっていくことを経て、本の大切さや価値を大事にしながら仕事をしてきました。

 

「コロカル」トップページ

そして、2012年に、日本の地域をテーマにしたウェブマガジン『コロカル』を立ち上げ、紙媒体ではなくウェブサイトで記事を発信しています。地域にはたくさん課題がありますが、あえて「ローカルは楽しい」、「かっこいい」、「進化している」ということをうたい、地域の新しい挑戦や観光資源、移住定住、豊かな暮らしなど、現代的な視点で「都市生活とは違う新しい場所だよ」、「新しいフロンティアだよ」ということを発信しており、毎月およそ45万人の方に見ていただいています。ウェブサイトを始めて10年が経ち、その中で地域の動き方やも変わっていきているところがあるのかなと思っています。

 

そして、地元である一関市で駅前に拠点施設を作り、観光誘客やプロモーション、商品開発などをしています。ふるさと納税の取り回しなどもやっているチームで、スタッフが元気に活動しています。それぞれが持つ事業を頑張りながらこうして集まって一緒に取り組むことによって、さらに新しい可能性が生まれるということを、日々試行錯誤しながら進めています。

 

「こここ」トップページ

2021年に立ち上げた福祉を訪ねるクリエイティブマガジン「こここ」。これは福祉の専門メディアではありません。今生きづらい社会になっている中で、人間が大切にしなければいけない感覚が福祉の世界にあるんじゃないかと感じ、「みんなにとって必要なものであり、みんなに関わる言葉である」という思いを込め、障がいのある方たちや福祉に関わる人々の活動や大切にしたいことを、マガジンハウスらしく多くの方に届けるメディアとなっています。

 

私たちにとって本とはどんな存在なのか

 

自己紹介が長くなりました、本題に入ります。

 

今日は、「本、本棚、読書、図書館をめぐるはなし」というテーマでお話ししたいと思いますが、私は編集者であり、実際に本と関わる仕事をしてきて、読むということを仕事上でもプライベートでも若い頃からやってきました。そしてもちろん図書館や本棚など、本のある場所に触れることでさまざまな刺激やそこからもたらされるものを得てきました。なので、新しい図書館をみなさんが意見を出して作るという活動は非常に素晴らしい可能性がある話だと思います。実際に地域でそういったことに取り組んでいる方がいらっしゃいますので、実例を交えながら、本と、本が置かれている場所についての話をさせていただきたいと思います。

 

マガジンハウスから出ている『POPEYE』という雑誌の2017年の8月9日号で「君の街から、本屋が消えたら大変だ!」という特集を組んでいました。これは私が直接関わったものではなく、POPEYE編集部が作ったもので、読者的な立場で見ていた特集でした。ショッキングなタイトルですが、街の本屋さんがどんどん減ってきているのは事実です。街に本屋さんがなくなっていくと本に触れる機会がどんどん減っていきますよね。一方でインターネットで本を取り寄せることができる世の中になってきましたが、本屋さんや図書館などの本のある場所には、偶然の出会いがあったり、何か新しいことが生まれたり、本がたくさんあるからこその楽しみ方があると思っています。インターネットで検索して目的の本にたどり着くだけではなく、「本がたくさんある場所」というのはとても大事だなと思います。

 

これは、僕が子どもの頃から通い詰めた一関の名物書店「北上書房」です。ここは割と間口が狭くて、ずらーっと長い本棚にたくさんの本が並んでいます。僕はここで随分いろんな本と出会うことができました。地域の本を置くコーナーもありましたね。これからも北上書房は市民のために元気でいてくれてくれなきゃ困るなぁと思う本屋さんです。ここでたくさんの本と出会ったことが、もしかしたら編集者になる出発点だったのかもなと思います。

 

このイベントに参加するにあたり、「本って、どういう存在なんだろう?」と改めて考えました。よく「人はなぜ学ぶのか」という話に出てくる考え方で、「生まれたばかりの赤ちゃんにとって世界は全てが未知の世界である」というものがあります。最初に出会うのが母親や父親。言葉と出会ったり、外の世界と出会ったり。だんだん出会いを重ねていくことで成長し、さまざまな学習と経験で世界を知っていく。そして、自分の生きるべき道を考え始めるのが「学習」というものなのかなと思います。「学習」は単に教科書だけではなく、暮らしの中や、スポーツや文化活動などの部活動など、さまざまな経験・体験を経て積み重なっていくものだと思います。それらの中で、世界を知る、世界の見方を学ぶ、感性を磨く、人間性を磨く……など、「生き方を見つける、身につける」ということを人間は行っている。「何のために学ぶのか」と聞かれた時に、僕は「世界を知るため」と答えています。その中で生き方が見つかったり、身につけていったりするのかなと。教科書だけではおそらくそういうことは成し遂げられないんじゃないかなと思います。私の感覚としては、「私たちは書棚をさまざまな場所に持っている」または「持っているべきだ」と考えています。歴史、科学、思想、知識、そして、言葉そのものと出会う場所。こういう場所があることによって、人は豊かな感性や知識、人間性などを身につけていくことができるのかなと思います。

 

先ほどの『POPEYE』の特集の中のページをご紹介します。又吉さんが「僕の好きな本屋」という特集で本屋さんを紹介していたり、本屋さん自身が自身が好きな本屋を紹介していたり、本と出会う場所というのがすごく大切だということを多くの人が語っています。

 

「本のある場所」の新しい役割・在り方

 

私もコロカルの活動の中で、さまざまな「本のある場所」に出会ってきました。

 

鎌倉にある「ひぐらし文庫」というお店は、「せんべろ」と言われる千円でベロベロになれる安い値段設定の立ち飲み屋さんです。狭い店なんですけど、実は古本が置いてあるんですね。カウンターの裏側にも並んでいて、購入できます。お酒を飲んだ後に本と出会って買って帰っていく。そういうことをやっているお店です。

 

熊本県の南阿蘇村にある駅で週末だけ開店する古書店「ひなた文庫」は、電車を降りた方や地元で駅を利用する方が本と出会う場所になっています。

 

「箱根本箱」は、ホテルに本が置いてあるんです。出版社と本屋さんをつなぐ書籍販売の会社が運営されているホテルで、ここの本もすべてホテル滞在中に読むことができます。いろんな方が選書した良い本と出会う部屋をそれぞれ作っていて、気になったものは全部購入できるようになっています。

 

新潟県の三条市にある本屋さん「SANJYO PUBLISHING」は、Uターンの若い人たちが始めたお店です。いわゆる本屋さんであり、カフェもあり、地域の方々が出版物を出して広報やプロモーションのお手伝いをするような出版機能も持っています。書籍販売、カフェレストラン、出版という複合的なビジネスを展開する場所です。ここは、だんだん寂しくなった商店街にあった洋裁店の建物をリノベーションして始めていて、新しい場所づくりを地域で行っています。こういったお店があることで、地域の高校生が新しい本との出会いを果たせる。そういう機会になる場所なのかなと期待しています。

 

ここで、図書館の話をしたいのですが、冒頭でご紹介いただいた時に「一関市立図書館と深い関わりがある」とお話しいただいたのですが、特に私本人が深く関わっているわけではなくて、亡くなった父・及川和男が一関市立図書館の発足の時に名誉館長を拝命したんです。そこでコンセプトづくりなどの活動をしていました。父は一関に暮らして作家活動をしていまして、今の西和賀町、昔は沢内村と言いましたが、乳児死亡率をゼロにする活動で国民健康保険料を無料にしたという村長の深沢 晟雄さんのことをルポルタージュした『村長ありき』という本を新潮社から出しています。そういう活動をして著作を持っています。そんな父の図書館に関わる活動を、私は傍で見ていただけなのですが、これは良いなと思った一関図書館の基本理念の言葉を紹介させていただきます。「でかけよう ことばの海へ 知の森へ」。一関市立図書館の基本理念です。これは、一関ゆかりの国文学者で、日本で初めて近代国語辞典『言海』を作った大槻文彦の言葉に由来するもので、言海=言葉の海、そして知の森、図書館はそういった場所であるということを掲げて理念を作っていました。

 

一関図書館外観

一関市立図書館は駅から割と近いところに建てられまして、脇にはイベントをやるような文化センターがある二階建ての建物です。広々とした空間の中で書棚が低く設定されていて、非常に見渡しやすい空間づくりを行なっています。

 

私が一関で活動している話もありましたが、そもそも一関に戻るきっかけになったのが一関で行われたワークショップでした。大学生とか大学を出たばかりの地元の若者が集まって、一関のまちづくりの価値を探っていくというワークショップに参加させていただきました。それがきっかけで町のさまざまな方々と交流が生まれました。これが行われたのも一関図書館でした。図書館は本を読むだけではなく、人と人とをつないで何か学びを得るようなことを行っていく場所であることも、一つ特筆すべきことかと思います。

 


後編は次のリンクから読むことができます。

オンライントークイベント 「本にかかわる人の本にかかわるはなし」 vol.1 / 及川 卓也さん(後編)