花巻市 新花巻図書館 新花巻図書館

新花巻図書館

図書館を知る

多くの方に興味を持っていただけるように、図書館を紹介します。

イベント

ホームイベント一覧オンライントークイベント 「本にかかわる人の本にかかわるはなし」 vol.2 / 幅 允孝さん(前編)
2022/3/16

オンライントークイベント 「本にかかわる人の本にかかわるはなし」 vol.2 / 幅 允孝さん(前編)

オンライントークイベント「本にかかわる人の 本にかかわるはなし」第2回タイトル

 

「本、本棚、読書、図書館をめぐるはなし」

―多様化する本を読む場所 場所にあった本の選び方―

2021年11月18日(木曜)19:30-

 

岩手県花巻市の「新花巻図書館計画室」では、本にまつわる方々を招き、本のある空間や暮らしについて皆さんと一緒に考えていくため、全3回にわたってお送りするオンライントークイベントを開催しました。 令和3年11月18日に、有限会社BACH 代表・ブックディレクターの幅 允孝さんをお招きし開催したイベントの様子を3回にわたって公開します。

 

 

幅允孝氏プロフィール

〈幅 允孝さんのご経歴〉

選書家、ブックディレクター、編集者、執筆家。 有限会社BACH(バッハ)代表。 愛知県立芸術大学非常勤講師。 「本と人が出会う」をテーマに幅広い分野で活動をしている。近年は、建築家・安藤忠雄氏が大阪市に寄付をした、氏の設計による図書館「こども本の森 中之島」(2020年)での選書や配架、クリエイティブ・ディレクションなど。「こども本の森 遠野」(2021年)、「早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)」(2021年)での本の分類・選書・配架など。海外では、英国・ロンドン、ブラジル・サンパウロ、米国・ロサンゼルスにある「JAPAN HOUSE」の選書と配架、イベントプロデュースなどを担当。そのほかにも、国内外で文化施設、飲食店、企業、医療施設など多岐にわたるブックライブラリーを手がけている。

Instagram:@yoshitaka_haba

 


 

高橋信一郎さん(以下、高橋):前回はマガジンハウスの及川卓也さんをお迎えして「本との関係性づくりや本を読む場所の居心地の良さ」をテーマにお話しいただきました。今回はゲストに有限会社BACHの代表でブックディレクターの幅允孝(はば よしたか)さんをお招きし、前回とは違った目線で本に関わるお話をしていただきます。よろしくお付き合いください。

 

では幅さん、本日はよろしくお願いします。

 

 

イベントの様子1

 

幅允孝さん(以下、幅):こんにちは。よろしくお願いします。

 

高橋: 今日の資料を先に読ませていただいたのですが、「心地よく本を読むことができる空間」について、とても面白いお話をお聞きできるんじゃないかと思います。よろしくお願いします。

 

幅:ご紹介いただきました、幅と申します。私はブックディレクターの仕事をしています。この仕事を簡単に言うと「いろんな場所で、本棚をつくる」仕事です。本がある場所には棚がありますよね。本を売っている書店、本を貸し出している公共図書館がパッと思いつきますかね。ほかにも、病院の待合室、企業の資料館、社員向けの専門図書館、大学など学校施設の図書館などあらゆる本棚をつくっているのです。

 

私は大学を卒業してから、六本木にあった青山ブックセンターという書店で働いていました。働き始めて5年くらい経過した2000年ごろでしょうか。来店する方が目に見えて減っていったんです。それは、ネット通販大手のAmazonの日本法人ができた時期と重なります。

本というのは不思議な存在で、「誰かが読むから存在価値がある」のです。本のある場所・書店に来る人が減ると、そこにあった熱気が不思議と失われてしまうのです。そこで、「本と人が出会う場所、本と人との距離が近い場所を作ろう」と思い、ブックディレクターとして活動を始め、2005年に会社を設立したのです。

 

今、「欲しい本を検索して入手する」ことが当たり前になっていますが、それでは、知っている本しか手に取れないんです。でも書店や図書館に行くと、それまで興味がなかったジャンルの本が目に飛び込んできたり、知らない本を偶然手に取ったりすることがありますよね。こういう偶然の機会をいろんなところに点在させたいと思い続けています。

 

今は、動画やゲームが手軽に楽しめるようになり、時間の奪い合いが激しい世の中です。さらに深く言うなら、「他者の時間を奪うと富になる」というような経済の構造が出来上がってきています。その世界において、本はなかなか分が悪い。没入に時間がかかりますし、文章を読む力や想像力も必要です。そんな本を手に取ってもらうために、どう差し出すかを考えるのも私の仕事です。

 

今回、花巻市では新しい市立図書館を作ると伺いました。これからみなさんの声を集めながらプラン化して、プロジェクトを進めてくのは、とてもいいことだと思います。

 

図書館という施設の存在意義や機能も、時代と共に変わってきています。インターネットが普及する以前は、規模が大きければ大きいほど、収蔵冊数が多ければ多いほど図書館の評価は高かったのです。しかし、今ではGoogleに『ライブラリープロジェクト』という、オンライン上で全ての本をデジタル化して収蔵しているサービスがあります。ここの蔵書数を凌ぐ現実の図書館はなかなかありません。

以上を考察すると、今後の図書館は、来館してくれた方が手に取り、心に響く本を揃え、それをどう差し出すかが大切だと私は考えています。

 

また、図書館で重要なのは、蔵書の質と量だけではありません。「アーカイブス」(分類・保管機能)も大切です。これは、従来の分類法である「NDC」(日本十進分類法)を活用します。本の住所のようなもので、来館者の方から「この本ありませんか」と言われて、それを探すときには有効です。しかし、図書館の前を通り過ぎてしまう人たちの目を引く本棚にはならないんですね。

ではどうするか。それは、来館者の好奇心を刺激する「編集型本棚」を作成するのです。テーマ別に異なるジャンルの本が並んでいる棚を見たことがあると思いますが、あの本棚のことです。「あ、読んでみよう」とか「気になる」という興味を掻き立てられますよね。

これからの図書館は、NDCで分類した本棚でアーカイブスを守り、編集型本棚で、本を読む人に投げかける。その両輪を走らせることが大切だと感じています。

 

 

私たちはなぜ本を読むのか

 

幅さん資料1

 

ところで「そもそもなぜ本を読む必要があるのか」と考えたことはありますか?

昨年からのコロナ禍で本を読む人が増えたというデータが出ています。「時間にゆとりができて、久しぶりに本を読んだ」という経験がある方もいますよね。

本というメディアの特性を考える上で、「なぜ本を読むのか」を考えていく必要があります。ゲームや動画など楽しい娯楽が溢れているのに、なぜ、人は本を読むのでしょう。

 

まず、本は「責任の所在がはっきりしている」からだと考えられます。

コロナ禍で、「ウイルスって何なんだろう?」とか、「ワクチンって打ったほうがいいの?」「対策はどうすればいいの?」など、インターネット上に流れる膨大な情報を眺めていると、何を信じればいいかわからなくなってしまいます。

しかし、本は責任の所在がはっきりしている。著者がいて、そのバックボーンも明記しています。文章の中には、「この部分はこのデータが根拠です」などと、資料についても書いてあります。本は責任がはっきりしており、信頼できる情報の集合体ともいえるのです。

フェイクニュースなども多い時代です。これからの時代に生きていくためのスキルとして大切なのは、本を一冊読んだら、類似書籍も読み、一つの事象について、自分で考えるという姿勢だと感じています。

そうしないとその情報が不確かであるとさえ思わずに、口当たりがいいほうに流されてしまうんですね。コロナ禍はまさにそういうことが起こりやすかった。だから、本を読み、自分の思考を鍛錬しようと、みんなが自発的に思ったんじゃないかな……と個人的には思っています。

 

次に本は「受動的ではなく、能動的になる」という特性があります。

最近、サブスクリプションの映像チャンネルを観ている人が増えました。私自身も、面白くて見始めて、そのうちに関連性のある似たような動画を見続けて、時間だけが流れていたことがありました。つまり、終わりがないんですね。しかも、コンテンツに接していて、何かに気づいても、立ち止まることができないんです。

しかし、本は、何か気になる場所があったら止まってちょっと考えてみたり、別の資料を見たりすることができる。映像を視聴しているとき、人は受動的ですが、本は能動的に楽しめるのです。

スマホやタブレットを媒体としたメディアに接していると、受動に流されていることを感じます。本来テクノロジーは人間が主体として使うのに、今はその主従関係が逆になっていることもあります。だから今こそ、本というオールドメディアに接し、能動性を取り戻す。ただ、「スマホを捨てて本を読みましょう!」ではなく、最新の情報収集や映像視聴はスマホで、物語に没入したり、自分自身について考えるときは本でというように、メディアの使い分け方ができるといいですね。ただ、こういうことは、学校教育の現場でもなかなか教えてもらえないんですよね。

自分は何者であり、どういう意見を持って生きていくのか……これを考えるときに、図書館が果たす役割はとても大きいんじゃないかと思っています。

 

 

「働く人のための図書館」をつくる

 

図書館の多くは自治体が運営する公共施設として存在しています。

私たちが最初に公共図書館の仕事をしたきっかけは「札幌市図書・情報館」という、札幌市の真ん中にある、中央図書館の分館の立ち上げでした。ここの収蔵冊数は約4万5千冊で、公共図書館としては小規模です(注1)。この施設がどういう役割を果たすべきなのかと考え、「働く人たちのためのライブラリーにしよう」というコンセプトをみんなで決めていきました。

なぜなら、札幌市の中央図書館はかなりの郊外にあって、街の中心部で働いている人が仕事終わりに立ち寄るのはむずかしい。それを補完する存在にしたかったんです。

 

(注1)公共図書館の蔵書数の全国平均は約45万冊。(『公共図書館の現状』2019年 日本出版科学研究所資料)

幅さん資料2

 

「札幌市図書・情報館」の入口には、「はたらくをらくにする。」というコンセプトが書かれています。開館時間も仕事が終わった後にも行けるように、20時まで開館しています。また、ビジネスパーソンが時間の合間を縫って、せっかく来ても満席で座れないことがないように、WEBで席や会議室の予約をするシステムも導入。「はたらくをらくにする。」というテーマに応える独自の選書と分類をしています。例えば、棚を見てみましょう。

 

幅さん資料3

 

「人間関係」という大テーマをサイン(看板)で表現しています。昔の図書館だったら、こんな大きなサインを置くよりも、そこに本を埋めるという考え方が主流でした。

しかし、今はたくさん本があることではなく、利用者に響き、作用することの方が大切です。この大きなサインは、それをわかりやすく伝えるメッセージともいえます。そして、中テーマに「コミュニケーション」や「ジェンダー」などを入れています。

つまり、「人間関係」という大テーマには、中テーマ「ジェンダー」があり、その中の小テーマに「全ての人権を守れ!」などがあります。職場における性の多様性や個人のあり方についての考え方などの本がたくさん並んでいます。

一部ではこれを「課題解決型の図書館」と言います。調べたいことがあった時に、そのテーマに沿ったサインがあり、どういう本に導かれるのか、その見えない動線をとても明確にしています

 

選書もテーマにそって行っています。札幌ですから、「食べ物」のコーナーには食にまつわるエッセイなどを置きたくなりますが、あえてそうしませんでした。ここにあるのは、札幌での職業の分類や、産業について。どういう業種が隆盛し衰退しているのかがわかる本など、「はたらくをらくにする。」というコンセプトに寄った、ここにあるべき本を並べてしっかりと提案しています。

 

また、この札幌市図書・情報館は貸し出しを行っていません。公共図書館は「無料で本が借りられる」こともひとつの機能でした。しかし、今は本の貸し出しにとどまらない、教育とコミュニティの場に変貌してきています。

貸し出しをしないから、ここで時間をかけて集中して読み、返却台に返して帰っていく。そういう運用をしています。この返却台にはセンサーが入っており、その日どんな本が読まれて、どのぐらいの時間ここに置いてあったかがデータに残っています。これが、新刊購入の参考の一つとして使われています。

 

 

デジタル化社会での図書館の可能性

 

高橋:すごく頷いて興味深く聞いていました。

 

幅:何かご質問がありましたら、ぜひお願いいたします。

 

高橋:僕が気になったのは「メディアの使い分け」っていう言葉ですね。本ってやっぱりオールドメディアって言われ始めているじゃないですか。教科書でさえデジタルになる時代で、本は今後どうなるのかなって考えていたので。

 

幅:私も長編漫画などは、電子書籍で買います。しかし、再読するときは、紙の本で買い直すことも多いです。本棚に置いておくと安心するんですよね。人間に肉体がある以上、体に近しいものとしての本の存在はこれからも続いていく気はしています。

一方で、新しい図書館では、デジタル化を進めようとしますけど、「デジタルのアーカイブスを作る」ことと「デジタルの閲覧サービスを作る」ことは全く別のことなので、そこは気をつけています。

紙の本だと、人気の作品は予約が40人待ちということもあるそうです。そういうストレスを軽減させるものとしてデジタル図書の閲覧サービスがあるといいとは思います。あとは、稀覯(きこう)本ですね。花巻市が所有する図書館の貴重な資料は、希少性ゆえに一般開架は難しい。それなら、そこに誰でもアクセスできるようにするなどのデジタル化は進めていったほうがいいのかなと思います。

 

高橋:花巻は宮沢賢治の資料とかもありますからね。

 

幅:そうですね。ただ、「全部をデジタル化して読めばいい」と極端に進みすぎると、図書館そのものが不要になってしまう可能性もはらんでいる。図書館は、そこに身を置いて、普段なら絶対手に取らない本とか、今まで読んだことがない本を見たり、本に偶然出くわす、セレンディピティ、つまり幸福な事故が起こる場所でもあります。そこは、とても重要な部分なので。しっかりと考えていく必要があると思います。

 

高橋:ありがとうございます。納得しながら聞いていました。

 


 

中編は次のリンクから読むことができます。

オンライントークイベント 「本にかかわる人の本にかかわるはなし」 vol.2 / 幅 允孝さん(中編)- (hanamaki-city-library.jp)