花巻市 新花巻図書館 新花巻図書館

新花巻図書館

図書館を知る

多くの方に興味を持っていただけるように、図書館を紹介します。

イベント

ホームイベント一覧オンライントークイベント 「本にかかわる人の本にかかわるはなし」 vol.2 / 幅 允孝さん(後編)
2022/3/30

オンライントークイベント 「本にかかわる人の本にかかわるはなし」 vol.2 / 幅 允孝さん(後編)

オンライントークイベント「本にかかわる人の 本にかかわるはなし」第2回タイトル

「本、本棚、読書、図書館をめぐるはなし」

―多様化する本を読む場所 場所にあった本の選び方―

2021年11月18日(木)19:30-

 

岩手県花巻市の「新花巻図書館計画室」では、本にまつわる方々を招き、本のある空間や暮らしについて皆さんと一緒に考えていくため、全3回にわたってお送りするオンライントークイベントを開催しました。 令和3年11月18日に、有限会社BACH 代表・ブックディレクターの幅 允孝さんをお招きし開催したイベントの様子を3回にわたって公開します。

この記事は後編です。前編・中編はそれぞれ次のリンクから読むことができます。

オンライントークイベント 「本にかかわる人の本にかかわるはなし」 vol.2 / 幅 允孝さん(前編)- (hanamaki-city-library.jp)

オンライントークイベント 「本にかかわる人の本にかかわるはなし」 vol.2 / 幅 允孝さん(中編)- (hanamaki-city-library.jp)


 

土地や空間によって並ぶ本も変化する

 

幅さん資料14

 

幅允孝さん(以下、幅):岩手県「こども本の森 遠野」についてのお話もします。ここは大阪の中之島とは異なり、もともとあった商店建築を安藤忠雄さんがリノベーションしました。外観は安藤建築「らしさ」はないのですが、一歩中に踏み入れると、とても大胆な空間が広がります。

中之島は1万8000冊のうち1万4000冊は我々が選び、残りは寄贈でした。この遠野では、1万4000冊のうち寄贈が1万冊でした。新刊購入の予算がなく、2万冊の寄贈本の中から選び、作り上げていったのです。デザインや運営のチームメンバーは、地元遠野市や岩手の方ばかりで、地域色がとてもよく出ています。本棚の内容もやっぱり大阪とは異なり、民間伝承や逸話をまとめた『遠野物語』(柳田国男著)にまつわる本が中心です。

 

幅さん資料15

 

もうひとつ、最近手がけた施設に「那須塩原市図書館 みるる」があります。これは、黒磯市の図書館にあった蔵書をそのまま移動させています。新刊を入れられなかったので、コンテンツに面白みを持たせることはできませんでしたが、ここも言葉の彫刻・アフォリズムを大きく掲出しました。

建物の特徴を生かし、機能を大きく変えました。1階部分は駅から直結しており、街並みの一部のように使っています。

2階はとても静かで、オーセンティックな図書館らしさがとても生きている、本と向き合う場所という性質が強いです。2階では立体的な企画展も開催しました。

 

幅さん資料16

 

あとは、2021年にオープンした「早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)」です。これは、作家・村上春樹さんが寄託したご自身の本とレコードのコレクションも収蔵している施設です。

村上さんの母校・早稲田大学は、作品の舞台としても登場する、いわばファンの「聖地」。ここには、村上春樹作品を起点とした、さまざまなジャンルの本を選書して配架しました。村上作品の貴重な初版本が置かれていたり、世界各国、それぞれの国の言葉で翻訳されている村上春樹作品も並んでいます。

この図書館はこれまでの図書館とは異なり、利用者同士が“シェア”できる初めての図書館だと感じています。

先ほど私は「読書は、一人で読むものなので、共有がむずかしい」と言いました。

しかし、ここでは、多くの人が村上作品を読みます。年齢や性別、国籍や母国語が違えども、さまざまな村上作品に没入しているのです。このように共通項がある図書館は稀有な存在です。それを意識しながら作り上げていきました。

 

高橋信一郎さん(以下、高橋):幅さん、ありがとうございます。

 

 

リアルな声を集めるインタビューワークの重要性

 

イベントの様子2

 

幅:こども図書館の話が多かったのは、未来の図書館を考えていくときに、子どもたちと本との距離をもう一度近づけるってすごく重要な姿勢だと感じたからです。

 

高橋:いくつか質問コメントも来ていて、僕からも幅さんにお聞きしたいことがあるので、もう少しお付き合いいただけますか?

 

幅:はい。でも、皆さん退屈ではありませんか?

 

高橋:いえいえ!コンセプトについてのお話がありましたが、幅さんが決めているんですか、みなさんで決めているんですか。

 

幅:これはケースバイケースです。例えば札幌市図書・情報館の「はたらくをらくにする。」は、館長の淺野隆夫さんが決めました。話し合いの中でコンセプトがたくさん出てきて、それを絞り込んでいき、最後に「えいやっ」と、誰かが決めます。

こども本の森 中之島の分類も、草案を僕らが作り、それを行政だったり市民の方だったりいろんな方の声をいただきながら決めていきました。

 

高橋:コンセプトに対してターゲットを設定されたりするんでしょうか。

 

幅:マーケティングの資料もいただきますので、それには一通りは目を通します。しかし、ターゲットを明確には定めません。公共の場所である以上あらゆる人に開いている必要がありますから。

例えば絵本でも、3歳向けの本とはなっていても、80歳の人が読んで面白いと感じる可能性はありますから。本は、二度と同じように読めないのも特徴です。

『ぼくらの七日間戦争』(宗田理著)は、中学生が廃工場に立てこもり、大人と戦うストーリーですが、中学生の時は胸を熱くしながら読みましたが、今読めば、先生や親側の立場で読んでしまいますからね(笑)。

 

高橋:あぁ〜わかります〜!

 

幅:「子ども用の本だから」などと決めてしまうのではなく、本は多くの人に開かれた状態であるべきだと思っています。ですから、データを見つつも細かなターゲティングは行わず、すべての市民に向けて作り上げていきます。

あとは、利用者へのインタビューを行います。企業のライブラリーなら、本を100冊ぐらい持って行き、一冊一冊「こういう本はどうですか」と本に興味がない人にまで聞いています。また、様々な部署の方にランダムに来てもらって、「好きな本や著者は誰ですか」と質問していく。

話を重ねるうちに、「このジャンルは、知らないと言っていたけれど、ちょっと興味があるようだな」とか、「なんか面白そうだと感じてもらっている」とか、ニーズを掘り起こしていくのです。

本はハード面も重要なメディアです。「文字が小さくて読めない」とか、「重い本は読むのも辛いし、落としてしまう危険性もあるんだな」などと、リアルなことも分かってくる。生のいろんな声を集めながらやっていくことはすごく重要ですし、ライブラリーを作るためには、そこからしかスタートできない部分も多いと思います。

 

佐賀県の診療内科の病院のライブラリーを作りました。ここの先生は認知症の専門家が多い。

したがって、認知症の患者さんが多いんです。先生は、「ウチの患者さんは、短期記憶よりは長期記憶が得意なんです。朝ごはんに食べたものは忘れるかもしれませんが、昔のことは覚えているんですよ」とおっしゃっていました。

そこで私は70年の大阪万博や、64年のオリンピックのような国民的なイベントの関連図書を持参し、インタビューに行きました。

しかし、利用者さんは、そのような本には、興味を持ってくださらなかった。それよりも、農耕具の図鑑などに興味を持つ方が多かった。

ある年配の男性は、「農協の月賦でこれを買った」とかおっしゃってね。先生から息子さんの名前を忘れかけていると伺っていた方ですが、若い頃の暮らしの記憶は鮮明に残っているんですね。

 

このように、生の声を聞かないと分からないことはとても多いです。ですから、インタビューが欠かせないんですね。

結局、本は100人読んで100人が面白いと感想を持つ作品は、ありません。

選書を進めていくことは、私なりの「誠実さ」を突き詰めることでもあります。このときに大切にしているのは、まず一人の読者を見つけること。目の前にいる「あなた」に差し出す本を探していくんです。それが重なると、ある程度の共通点や汎用性のようなものが増えていく。「この世代にはこのジャンルの本が売れる」などのデータはありますが、それよりもリアルな声を中心にしながら組み立てていくほうが、自分自身もユーザーの方も納得できます。

本はひとりでしか読めません。ですからそこを誠実に進めて行っています。

 

高橋:最後に僕が気になった質問です。ブックディレクターと図書館の司書さんって、共通点や違う点はありますか。

 

幅:基本は「本を届けたい」という思いがあるから、仕事をしているので、大きく変わる部分はありません。

司書さんの場合はアーカイブスを守るという使命があって、そこに重点を置いている方も多いです。一方でそれだけだと目の前を通り過ぎていくユーザーさんには、本が届かない。

「投げかけ」と「アーカイブスを守る」という両輪が必要だと言う機運は高まっています。地元の人の声を集める場所として、司書さんの力はとても大きく、頼りになります。関係性の構築には注力しています。

 

公共図書館に僕らが入ると、NDC以外の分類方法が発生しますので、司書さんの負担が増えるんです。それまではNDCで分類していたのに、オリジナルの分類が入ってしまい、階層もぐちゃぐちゃでカオスみたいになる。ちゃんと依拠するところを作った上で大・中・小分類とちゃんとルールを決めて作っていきます。そこに司書さんの個性が出ます。

札幌市図書・情報館は近隣の図書館の中でもやる気が溢れている司書さんが多く、ベースを僕らが作って、現場の細かなことは司書さんが決めていました。

あと、神奈川県立図書館のリニューアル監修もしています。ここは、国会図書館を作った建築家・前川國男の現存する数少ない建物のひとつなんです。

ここは県立図書館なので、他の自治体図書館よりもアーカイブを守っていくということを司書さんたちがかなりセンシティブにやっていました。守っていきたいものがありながら、「本も資料も読まれてこそ価値が出る」という考えを持ち、新しいアイデアや差し出し方を取り入れながら進めています。

 

高橋:ありがとうございます。僕もすごくもやもやしていて、司書さんとの関係。僕は作る側で全体の意見を集めたりして、司書さんのやりやすさについても考えていたので、今のお話を聞いて、全体的に見るっていう感覚もなんとなく分かりました。

 

幅:司書さんは常に図書館にいます。いろんな声を集め続け、使う人の疑問に対して答えるレファレンスのサービスをしっかり充実させていく役割を持っている。そういう意味で重要なポジションです。ディレクションする我々は、ずっとそこに立つことはできませんので。

 

こども図書館には、子どもが司書の体験をする事例もありますが、様々な方に司書的なことをやってもらうのも面白いですよね。例えば漁師さんに魚の本を選んでもらうとかね。本を選んで終わりではなく、図書館に納入し、見守るところまで行うんです。司書さんはそういう守り人的な役割ですよね。

 

 

居心地の良い場所は本を読ませる

 

高橋:ありがとうございます。コメントもたくさん来ていました。「図書館から一度離れてしまった大人に再度図書館と距離を縮めてもらうためにはどんな仕掛けがいいですか」と来ています。

 

幅:これは居心地をよくすることですね。

 

高橋:幅さん……。実は、幅さんに最後に聞こうと思っていた質問があって、それを及川さんにも質問していたんですよ。「本を読む場所に大切なもの、求めるものはなんですか」と及川さんに聞いたら、幅さんと全く同じ、「居心地」って。

 

幅:おお、すごい!

 

高橋:だから今ざわざわしてます。

 

幅:実際我々も図書館を作るときに配架や分類の他に家具計画とかも関わるんですね。

重要なのは、床材から考えること。例えば新刊図書の前の床材はPタイルで少し硬めにして回転を早める。哲学や心理学の本は没入に時間がかかるから書架の前の床材をカーペットにし、ちょっと毛足を長くしてふかふかにしておく。郷土資料を手にとって欲しい時には椅子を置きますが、どんな椅子を置くかまで考えます。この場合の椅子の座面は、その高さを他よりも低くして、370ミリぐらいのものを選び、柔らかさを出す。重い芸術書を手にとった後に置く場所があるかないかで手に取る可能性が変わる。

以上はほんの一例で、ユーザーが「気づかわれていることに、気づかない」くらいのさりげなさで考えています。

「なんかここに来ると気持ちいいから読んじゃう」という居心地の良さはとても大切です。本と空間が融合することも大切なんだと思うんです。この居心地は明文化できませんし、ユーザーは意識していない。ですから、作るのがとても難しいんですよね。

でもそれを「本を読んでもらう」という1点に向かって、いろんな方向から考えていく。照明、座面の素材まで、考えていくことも必要なんです。

それもサイン(看板)やアフォリズムと同様、差し出し方の一つですよね。

 

高橋:ありがとうございます。最後にとっておいた質問が最初に出たので、図書館イコール居心地って言うのが聞けてざわざわしています。嬉しいです。

 

幅:そうですね。図書館もライブラリーも、人間が体を運んで行く場所です。その居心地、もっと言うなら家とか職場とか、学校とかと違う時間を流す必要もあります。今は目まぐるしく時間が流れている。それよりも少々緩めたような時間が流れる居心地をどうつくるのか。

居心地と同様に、「時間をつくる」視点も重要になってくると思います。時間の奪い合いが激しすぎる中で「あそこで90分読むぞ」という気持ちにさせるような、そんな空間をどう作っていくか。それが課題だと思います。

 

高橋:ありがとうございます。もっとお話を聞きたいところですが、時間が来たので、ここで締めさせていただきます。今日は幅さん、ありがとうございました。

 

幅:ごめんなさい、長々と。

 

高橋:すごく面白くてわくわくしました。

 

幅:花巻の図書館が、多くの人にとってステキな本の出会いの場所になるように、願っております。

 

高橋:ありがとうございます。次回26日はマガジンハウスの松原亨さんをお招きしてお話を伺います。

『CasaBRUTUS』で全国の書店や図書館をご覧になっている方なので、すごく楽しみにしています。次回もよろしくお願いいたします。

 

最後に、幅さん、ありがとうございました。私もですが、視聴者の皆さんも楽しい時間になったんじゃないかと思います。

 

幅:いえいえ、こちらこそ。ありがとうございました。

 

イベントの様子3